音楽療法の効果

1.高齢者に対する音楽療法

音楽療法は認知症中期に頻発する知覚や思考内容、気分あるいは行動の障害(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia ; BPSD)を改善します。
Chang1)らは認知症患者と音楽療法に関する15年分の研究の中から、無作為抽出研究をすべて抜き出しメタ分析を行ったところ、音楽療法は有意に妨害行動を改善し、認知症にまつわる不安レベルを改善し、うつ状態にも認知機能にも効果があるとしました。
効果量からすると以下のようになります。

① 音楽療法は認知症の妨害行動に大きな効果があり
② 不安やうつに関しては中くらいの効果があり
③ 認知機能には小さな効果があるとしました。

認知症高齢者に対する音楽療法効果に関して、レビュー研究でも多くの研究はBPSDに対する音楽療法効果をまとめたものが多く、Gomez-Romeroら2)はら2003年からの10年間の2188の論文にあたり、11の論文から非薬物療法としての音楽療法は認知症のどのレベルでも、たとえ重度の認知症患者であっても参加可能であり、認知症患者の不安と興奮・混乱行動を改善すると結論づけました。
LiYHら3)は2004年から2013年までの「music」「music therapy」「dementia」をキーワードにして検出された272(この中で無作為抽出論文は18)の論文から、音楽療法は認知機能、精神的徴候、食事の問題を改善するとしています。研究での音楽療法の材料は「なじみの歌」(好きな歌、思い出のある歌、よく歌った歌)を使用するものが殆どで(61.1%)、30分の介入で週2回行われ、77.8%が音楽療法士か訓練されたケアワーカーによるセッションであったと報告しています。
私たちが行った研究4)でも認知症重度高齢者に対して行われた音楽療法の長期効果(週1回1年ないし2年間行われた音楽療法の効果)の結果が得られました。それは音楽療法参加群は参加しなかった群に比べて、収縮期血圧の上昇があるということでした。つまり加齢により血圧は上昇していくのですが、週1回の音楽療法でこの上昇が抑制されたという意味です。これは外で運動をしていると同じ効果であり、歌を歌うことと楽器を演奏することは、運動であり、、音楽療法が心疾患、脳疾患の予防になりうることを意味しています。車いすではなかなか運動ができにくい高齢者も楽しく音楽療法に参加することができます。

参考文献
1)ChangYS, ChuH, YangCV,et al : The Efficacy of music therapy for people with dementia : A meta-analysis of randomised controlled trials.: J Clin Nurs.: 12976, 2015.
2)Go’mez-RomeroM, Jime’nez-PalomaresM, Rodriguez-MansillaJ,et al: Benefits of music therapy on behavior disorderes in subjects diagnosed with dementia: systematic review.: Neurologia: 248-5, 2014.
3)LiYH, Chen SM, ChouMC, et al : The use of music intervention in nursing practice for elderly dementia patients : a systematic review : Hu Li Za Zhi 61(2): 84-94, 2014..
4)高橋多喜子、松下裕子;中度・重度痴呆性高齢者に対する音楽療法の長期効果―生理学的指標による検討―。日本音楽療法学会誌5(1):3-10.2005.

高橋多喜子 「補完代替医療 音楽療法 第3版」(金芳堂)から抜粋 pp22

2.認知症予防効果

高齢者自身の日常を支える認知機能をいかに維持していくかという問題について、私たち1)(2010)はこれまで認知症予防としての音楽療法の効果を検討してきました。ここでは認知症では無い平均年齢79.0歳の後期高齢者を対象としたベル活動を用いた集団音楽療法を半年間実施することにより、認知症予防が示唆できるという結果が示されました。
集団でのベル合奏は社会性を強化するプログラムとして有効であると考えられており、参加する高齢者が楽しみにしているプログラムとなりうるという利点があり、加えて参加メンバー全員で1つの曲を完成させるという意味で、グループ間の連帯感とともに、自分の担当箇所で音を鳴らさなければならないという集中力が発揮されやすいとされています。楽しみながら、楽譜を追いつつ、リズムにあわせてベルを振るということが認知的に適度な負荷の二重課題となり、認知症予防効果を生み出すと考えられます。
この研究では、音楽療法参加グループを実験群、音楽療法活動に参加しないグループを統制群として研究がデザインされましたが、音楽療法群とカラオケ群との比較でも、同様の結果が出ており、音楽療法を行うことで認知機能が維持できたのではないかと考えられます (高橋・高野,2015)2)

参考文献
1)高橋多喜子,高野裕治:認知症予防に関する音楽療法の効果-ベル活動を中心として-
日本音楽療法学会誌10(2):202-9,2010.
2)高橋多喜子,高野裕治:高齢者の集団音楽療法による認知機能維持効果-集団音楽音
楽療法とカラオケを比較して-, 国際コミュニケーション学会誌20(1):179-184, 2015.

  

3.障がい児に対する効果

2014年のコクラン・レビューから、Geretseggerらのシスティマテック・レビューを紹介します1)。ここでは、10の無作為抽出研究(RCT)が採り挙げられ(対象症例数165名)、自閉症スペクトラム障害の人々に対する、1週間から7か月間の短期、中期間の音楽療法の効果量が測定されました。音楽療法はプラセボや標準的ケアと比較して、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder ; ASD )の人々の「社会的相互作用」や「行動の開始(initiating behavior)」「親子関係の質」に関して中くらいの効果があり、「 社会的、情緒的相互作用」には低い効果があるとしました。Geretseggerらは、さらに、音楽療法は音楽療法場面でASDの非言語的コミュニケーションスキルも向上させるが、これらの結果はより大きいサンプル数での裏付けが必要であり、また音楽療法を行うには、アカデミックな臨床的訓練が必要であると述べています。
このGeretseggerらの「更なる研究数の裏付け」を受けて、ソーシャルスキルに関してLaGasse2)も言及しています。LaGasse の研究目的はASDの子どもたちへの集団音楽療法でのアイコンタクト、共同注意(joint attention)コミュニケーションについて調べることです。6歳から9歳のASDの子どもたちをランダムに音楽療法グループ(MTG)とソーシャルスキルグループ(SSG)に分け、5週間、1回50分のグループセッションを10回行いました。すべてのグループセッションの目的はソーシャルスキルを獲得することです。評価指標としてSocial Responsiveness Scale (SRS)と the Autism Treatment Evaluation Checklist (ATEC)が用いられ、社会的行動の評価にはビデオ分析を行いました。結果は、音楽療法グループ(MTG)の方が仲間同士の共同注意、人に対するアイコンタクトをより獲得できました。コミュニケーションの開始、コミュニケーション反応、社会的行動に関しては、両グループに有意な差はありませんでした。SRSスコアに関して、MTGグループは時間とグループ間に顕著な相互作用があり、時間とともにSRSスコアが向上しましたが、SSGグループはそうではなかったのです。ATECスコアに関しては、MTG、SSGグループとも差はありませんでした。結論として、グループ音楽療法は共同注意を促進するための最初のサポートであると述べています。

1)Geretsegger M., Elefant C., Mossler KA., Gold C..:Music therapy for people with autism spectrum disorder. Cochrane Database Syat. Rev. Jun 17. 2014.
2)LaGasseAB : Effects of a music therapy group intervention on enhancing social skills in children with autism. J Music Ther. Fall, 51(3).250-75. 2014.

高橋多喜子 「補完代替医療 音楽療法 第3版」(金芳堂)から抜粋 pp51-53